
学校の安全と危機管理

学校は子どもたちが安心して学べるところです。そのためには、教職員の危機管理意識の向上と維持に努める必要があります。
学校における危機管理では、子どもの生命や心身等に危害をもたらす様々な危険が防止され、万が一事件・事故・自然災害等が発生した場合には、被害を最小限に止めるために、適切かつ迅速に対処することが大切です。
ここでは、学校の安全と危機管理の考え方について理解を深めたいと思います。

学校教育活動で安全確保が必要な場面
もし、学校の教育活動で事件・事故が起こるとしたら、どのような場面かを考えてみましょう。
場面が想定できると、それに対する危機管理対策も明らかになります。

- 登下校
- 始業前、授業中、休み時間、給食時間、清掃時間、休憩時間
- 校外での学習活動(総合的な学習など)
- 遠足、修学旅行等の校外における学校行事
- 放課後、部活動時間
- 自然災害

学校での危機管理の意義
「備えあれば憂いなし」は、危機管理の基本です。日頃から、教職員はあらゆる危機的状況を想定し、その対応を協議し、共通理解を図る必要があります。防犯や安全管理について、予め研修や訓練の機会をもち、危機管理に対する意識や対応力を高めておく必要があります。そのことが被害を未然に防いだり、被害を最小限に抑えることになります。
そのためには、学校の実情に応じた独自の危機管理マニュアルの作成を行わなければなりません。

- 事前の危機管理マニュアルの作成
・・・リスク・マネージメント - 事後の危機管理マニュアルの作成
・・・クライシス・マネージメント
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学校安全計画と危機管理マニュアル
学校では、子どもが安全で安心して学校に通えるために、学校安全計画が位置づけられています。
学校安全計画には、安全教育に関する事項、安全管理に関する事項、安全に関する組織活動があり、危機管理マニュアルも作成されています。

【学校安全計画】
- 安全教育・・・
安全について理解させ、適切な行動ができるようにする指導
- 安全学習:各教科における安全に関する学習
- 安全指導:特別活動や行事等で主に体験的に安全を学ばせる
- 安全管理・・・
対人管理と対物管理を適正な状況にすること
- 心身の安全管理:判断力、心理状態、体調等の重要性について学習する
- 生活や行動の安全管理:事故事例から原因や要因を提示し、絶対に行ってはいけない行動や場所の規制等について学ぶこと
- 組織活動・・・
安全教育と安全管理の2つの活動を効果的に進めるための家庭・地域との協力・連携体制を作る活動

小学校の学校安全全体計画(例)
学校では、学校教育計画の中に具体的な学校安全計画が示されています。
この計画が絵に描いた餅にならないように、実効性のあるものにしていかなければなりません。

- 授業においては、常に安全指導を行う
- 学校行事においては、安全指導と同時に安全管理も行う
- 子どもが安全に的確に行動できる能力と態度を育てる
- 定期的に校内の安全点検を行う

校内で生徒同士が喧嘩をし、大怪我をしたときの対応

休み時間に、教室で些細なことから生徒同士が喧嘩をし、椅子で頭を殴られた生徒が頭に大けがをしました。
学校としてどのように、対応したらいいのかを考えていきましょう。

校内で生徒同士が喧嘩をし、大怪我をしたときの対応
生徒が怪我をしたときには、すばやく応急処置、救急処置を行うことが大切です。
養護教諭と連携を取りながら、学校長の指示に従って、危機管理マニュアルに沿って職員が迅速に対応することが重要です。
状況によっては、危機管理マニュアルにしたがわずに、臨機応変に対応することが必要な場合があります。

- 怪我の状況を把握し、素早く応急処置、救急処置をとる
- 校長・教頭への報告
- 被害生徒の保護者への連絡
- 喧嘩の状況の把握(報告書にまとめる)
- 加害生徒と被害生徒の保護者への対応
- 外部機関との対応は一元化

教師への暴力事件が起こったときの対応

教師が生徒から暴力を受け、怪我をしたときの、学校の対応について考えていきましょう。

教師への暴力事件が起こったときの対応
教師が生徒から暴力を受け怪我をしたときには、すばやく応急処置、救急処置を行うことが大切です。
養護教諭と連携を取りながら、学校長の指示に従って、危機管理マニュアルに沿って職員が迅速に対応することが重要です。
状況によっては、危機管理マニュアルにしたがわずに、臨機応変に対応することが必要な場合があります。

- 教師の怪我の状況を把握し、素早く応急処置、救急処置を行う
- 校長・教頭への報告
- 加害生徒の対応及び事実確認
- 他の生徒の動揺を押さえ、授業を再開できるようにする
- 他の生徒からも事実確認を行い、報告書を作成
- 加害生徒の保護者への対応
- 緊急職員会議の招集(必要に応じて)
- 外部機関との対応は一元化
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児童虐待(疑い)に気づいたときの対応

子どもが保護者からの虐待を受け、命を絶つ悲惨な事件が起こっています。
虐待を受けている子どもたちは、虐待を受けていることを隠そうとします。
ここでは、児童虐待やその疑いがあると気づいたときに、学校としてどのように対応したらいいのかを考えていきましょう。

児童相談所における児童虐待相談対応件数
児童相談所における児童虐待の相談対応件数は、年々増加していいます。
- 平成 7年 : 2,722件
- 平成17年 : 34,472件
平成17年は、10年前の約12.7倍に増えています。しかし、実際の虐待件数は、相談対応件数をはるかに上回っていることが考えられます。
児童虐待は、本人及び家族の申し出がない限り、発見が難しいのです。でも、子どもたちは誰かが気づいてくれるのを待っているのです。
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児童虐待防止等に関する法律において、学校及び教職員に求められている役割
日常的に子どもと関わっているのは教師です。教師は、虐待を発見しやすい立場にあります。
それ故に、学校には、「児童虐待防止法」で児童虐待の早期発見の努力義務が課せられています。
また、虐待の疑いがあると判断した子どもについては、学校は児童相談所や社会福祉事務所に通告の義務が課せられています。
そして、関係機関と連携協力し、虐待を受けた子どもの保護・自立支援に向けての努力義務が課せられています。

- 虐待の疑いを早期に発見することが、子どもの命と尊厳を守ることになる
- 教師は、常日頃から子どもと関わり、観察し、変化に気づく力量を高めること
- 子どもは教師のことを信頼していると自分の悩みを相談しようとする
- 教職員一人ひとりが「児童虐待防止法」を理解すること
- 児童相談所、福祉事務所、市町村の関係機関との連携を行う
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児童虐待の区分
教師一人ひとりが、「様々な問題の背景には、児童虐待があるかもしれない」という認識をもって、子どもと関わることが必要です。
虐待は、子どもの心身を傷つけ、自尊心の低下、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、虐待の連鎖などをもたらし、子どもの成長・発達を妨げる重要な問題です。。

- 身体的虐待と不慮の事故による外傷ではその特徴が異なる
虐待の疑いを感じたときには養護教諭や学校医に相談する - こどもの発育・発達に遅れが見られたり、朝から空腹を訴えたり、異常な食欲等はネグレクトの疑いがある
- 性的虐待が疑われた場合は、児童相談所等に早期に相談すること。性的虐待の発見が一番難しい
- リストカットの自傷行為や摂食障害等が見られる場合において、心理的虐待の疑いがある

校内における児童虐待(疑い)対応の流れ
子どもが引き起こす様々な問題の背景には、「虐待があるかもしれない」という認識を持って、教職員一人ひとりが子どもと関わることが重要です。
また、虐待(疑い)への対応に当たっては、教職員の情報を集約し、学校として組織的に対応できる「虐待対応委員会」のような校内組織体制づくりが必要です。
虐待対応委員会が校長のリーダーシップの元で児童相談所や福祉事務所等の外部機関と早期に連携を取ることが、子どもを守ることにつながるのです。

- 養護教諭の健康相談活動における子どもの観察記録は重要である
- 虐待を疑った根拠となる事象について、詳細に記録する
- 本人から訴えがあった場合には、語られた言葉通りに記録する
- 伝聞情報と直接確認できた情報を、はっきりと区別し記録する

不審者が校内に侵入したときの対応

1時限目の授業時間に、不審者が1階にある2年3組の教室に侵入し、刃物を振り回し暴れています。子ども数名が負傷し、不審者は校内を移動中です。
不審者が校内に侵入したときに、学校としてどのように対応したらいいのかを考えていきましょう。

不審者が校内に侵入したときの対応
不審者が校内に侵入してきたときには、子どもの安全を最優先に対応することが大切です。

- 子どもの安全確保
- 情報の収集
- 警察及び救急車への連絡
- 授業再開に向けた取り組み
- 子どもの心のケアー

校内における不審者に対する取り組み
学校では、不審者対策として様々な取り組みが行われています。

- 子どもの通学路の安全確保のために、学校安全マップを作成し掲示
- 不審者への対応マニュアルが、校内の目につきやすいところに掲示
- 不審者の凶器対策として、教室や職員室等にサスマタ等を準備
- 来校者に対しては、受付名簿に記入させ確認を行い、名札、腕章、リボン等の着用の義務化

事件・事故・災害等を体験した子どものケアー

予期しない事件・事故・災害等は、子どもや教職員の心身の健康に大きな影響を与えます。
心に傷を受けた子どもや教職員の心のケアーは、迅速に適切に行うことが必要です。
予期しない事件・事故・災害等を体験した子どもの心のケアーに、どのように対応したらいいかを考えてみましょう。

保護者のクレーム対応

「校長に担任を替えるように言っているのに、聞き入れてくれない。」
「教育委員会でどうにかして欲しい!」
このような理不尽な保護者からのクレームが、最近増えています。保護者からどんなクレームが寄せられるか不安に思っている教師もいます。
保護者のクレームに対して、どのように対応したらいいのかを考えていきましょう。

保護者からの理不尽なクレームの事例
学校や教師に対して、身勝手で理不尽な要求やクレームを突きつける保護者は、「モンスターペアレント」と呼ばれています。

【モンスターペアレントの特徴】
- 子どもの言葉をうのみにすることが多い
- 我が子にも落ち度があるかもしれないという考えが及ばない
- 子どもの気持ちより親の気持ちが前面に出ている
- 教師は何もしてくれないという思いこみが強い
- 教師に対する不信感が強い
- 子どもから聞いたことや教師の発言等を逐一記録し、それを元にクレームを行う
- 学校に言うよりも先に教育委員会へ電話をすることが多い

保護者からの理不尽なクレームの対応
保護者からのクレームについては、その対応を誤ると保護者との関係が悪くなり、長期化する場合があります。
クレームを通して、保護者との信頼関係を築くきっかけにすることもできます。
また、理不尽な保護者との関わりは、教師としての力量を高める一面もあります。

- 保護者からのクレームに対して、一人で抱え込まずに、校長・教頭及び学年主任等にその都度報告し、助言を求めること
- クレームに対しては、迅速に対応すること
- 日頃から子どもの記録を整理し、説明責任を果たせるようにしておくこと
- クレームのある保護者に対しては、子どもの頑張りを多く伝える
- 保護者の訴えに真剣に向き合うこと
- 信頼関係の構築のために、教師が積極的に保護者に関わっていくこと
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