教員育成のためのモジュール型コア教材 臨床編

対人不安で教室に入れない中学生に対する箱庭療法

「わからない」を連発するA君の自己の成長を見る

1.
アプローチのねらい
[目標]

適応指導教室に参加する。

[面接の形式]

(1)前半30分に箱庭療法のセッションを行う。

(2)後半30分は母親を含めた面接を行う。

[アプローチのねらい]

12回(5ヵ月間)の箱庭療法と、その前後に風景構成法という描画法を実施することで、対人不安を克服させるべく自己の統合を促す。


2.
箱庭療法前の風景構成法
写真

A君が箱庭療法前に描いた風景画

[A君の風景構成法]
  • 川、田、道、山が層状に並び、ダイナミックさに欠けている。
  • 人は棒人間であり、幼い自己を示している。
  • 動物は鳥であり、ストレスを回避する傾向を示唆している。
  • 道に電柱を付設し、田にも水を引入れ、エネルギーを求める<自己愛欲求>が示されている。

3.
第1回箱庭療法 −不安の防衛−
写真

A君の作った箱庭 第1回(1ヶ月目)

[箱庭]
  • 川が左右を分割して、右が働く場(外の世界)、左が家庭。
  • 右側に「井戸の修理をして家に帰っていく人」が表現されている。
  • 家は、木や囲いで厳重に守られている。臆病で、不安な気持が表現されている。
[面接]
  • A君は父親とスポーツ観戦してパワーをもらい、部活の友人B君とやっと電話ができた。

4.
第2回箱庭療法(1ヶ月目) −動物の戦い−
写真

A君の作った箱庭 第2回(1ヶ月目)

[箱庭]
  • 「ライオンとカバの戦い」に一変する。
  • A君は「ゾウとキリンは逃げようとしているが、カバが子どもを守られるかわからない。」と説明した。
[面接]
  • 仲よしのC君と電話ができず、母親に調整してもらおうとするA君の甘え欲求と、親からの分離不安が窺われた。

5.
第3回箱庭療法(2ヶ月目) −戦いの続き−
写真

A君の作った箱庭 第3回(2ヶ月目)

[箱庭]
  • 前回で逃げていたゾウとキリンを猟師が追いつめている。追いつめられたA君の心の表現であると思われる。
[面接]
  • A君は、「B君に電話したい。」という気持ちがあることを話した。

6.
第4回箱庭療法(2ヶ月目) −対立した世界、自己像の出現−
写真

A君の作った箱庭 第4回(2ヶ月目)

[箱庭]
  • 川が真ん中で分割し、右側の外の世界が広がり、そこにブランコが置かれ、遊び場が作られる。
  • ブランコに乗っているのは、A君の<自己像>であろう。
  • 左下の隅にニワトリ小屋(保護された空間)を作り、A君は気に入っていた。
[面接]
  • 学校の三者面談に出なかったが、B君と電話をすることができ、壁を一つ乗り越えた。

7.
第5回箱庭療法(2ヶ月目) −対立から統合へ(中心化)−
写真

A君の作った箱庭 第5回(2ヶ月目)

[箱庭]
  • 左右の世界が中心に向い、池が出現(<中心化>
  • 自己像が3匹の金魚にえさをあげている。
[面接]
  • B君と会うことができ、また一歩前進した。

8.
第6回箱庭療法(2ヶ月目) −曼荼羅の出現−
写真

A君の作った箱庭 第6回(2ヶ月目)

[箱庭]
  • 中心化が進み、中央の池に2匹の金魚と2羽の鳥が置かれ、<曼荼羅>(Mandala)が登場した。
  • 左下の「ニワトリ小屋」に人が入ってえさをあげ、その上の人は植物に水をあげている。栄養補給されて、パワーアップしい要求が窺える。
[面接]
  • A君が、かねてからのメンタルフレンド(相談的家庭教師)に同意し、学習援助が始まった。

9.
第7回箱庭療法(3ヶ月目) −出立のテーマ−
写真

A君の作った箱庭 第7回(3ヶ月目)

[箱庭]
  • 右側半分に大きな海が出現した。
  • 船を作り、これから海に出ようとしている。
  • イルカの親子が<自己像>を迎え入れようとしている。
[面接]
  • 適応指導教室への入級が現実になってきており、「旅立つ」ことができるであろうか。

10.
第8回箱庭療法(3ヶ月目)−旅立ちの失敗−
写真

A君の作った箱庭 第8回(3ヶ月目)

[箱庭]
  • 以前の戦いの場面に戻った。
  • ただし、前よりも少し余裕があり、A君は「インディアンが馬をペットにしている」と説明。
[面接]
  • A君は適応指導教室を見学した。しかし、教室に入ることができなくて、頭痛が生じてしまった。
  • メンタルフレンドの宿題が多いことに不満を抱いていたが、それを口に出せずにおり、結局母親が肩代わりした。

11.
第9回箱庭療法(4ヶ月目) −給油と再建−
写真

A君の作った箱庭 第9回(4ヶ月目)

[箱庭]
  • 真ん中に給油所を置き、さらにプラレールを敷き、道の建設を始めた。
  • 右下の屋根の上に、少年と子犬がひなたぼっこをして充電している。
[面接]
  • 学校の担任教師の配慮で、C君がプリントを持ってきてくれた。

12.
第10回箱庭療法(4ヶ月目) −旅立ちへ−
写真

A君の作った箱庭 第10回(4ヶ月目)

[箱庭]
  • 砂を入れていない隣の箱を使って、イルカの上に乗った少年を置き、ついに海に出る。
[面接]
  • A君は、メンタルフレンドに感化されて、父親と、はじめてボーリングをした。父親が登場し、A君は新しいことに挑戦した。

13.
第11回箱庭療法(4ヶ月目) −遊び場をつくる−
写真

A君の作った箱庭 第11回(4ヶ月目)

[箱庭]
  • 中央に大きな木を置き、<遊びコーナー>を設けた。その囲いの一部が開口しているのが注目される。外部との交流ができそうだ。

14.
第12回箱庭療法(5ヶ月目) −自己評価が上がる−
写真

A君の作った箱庭 第12回(5ヶ月目)

[箱庭]
  • 中央の大きな木の前に「やぐら」を組み、さらに「はしご」を掛けて、<自己像>が木の上に登り、達成感を示した。他の人はそれを見上げて称賛しているようであり、自己評価の上昇が窺える。
  • 周辺にはブランコ、すべり台、花壇が置かれ、全体が<遊び場>になった。

15.
箱庭療法後の風景構成法  −適応指導教室に入級できたときのもの−
写真

A君が箱庭療法後に描いた風景画

[A君の風景構成法]
  • 適応指導教室の近くにある山を描き、適応指導教室が現実のものとなっている。
  • 道が山の向こう側に回り、ダイナミックになった。
  • 前回と同じく、田は川から水が引かれ、家には電線が引かれている。エネルギーを自己の中に取り入れ、自己評価を上げることを必要としているのであろう。