
平成18年度制作
◆◆概要◆◆
この事例は対人不安が強く、教室に入れない中学生男子A君に対して、適応指導教室への入級を目指して箱庭療法を導入したものです。
言語表現が乏しく、「わからない」を連発するA君が、不安と戦いながら、適応指導教室に立ち向かう心の成長過程が、箱庭の中で表現されています。不安とは何か、不安をどう扱うかについて、箱庭療法の視点から見てみましょう。
- 【制作担当者】
- 中野 明徳
- (福島大学総合教育研究センター)

A君の生活歴
- 3人兄弟の末っ子として生まれた。言葉が少し遅れ、オムツがとれたのは3歳になってからである。
- いつも兄弟の後にくっつき、大人と話すときは目をそらす傾向があった。
- 野球がとても好きで、小学校のときスポーツ少年団に入っており、中学でも野球部に入った。外国の一流チームの選手についてはとても詳しい。

A君の現症歴
- 小学校高学年で一時期登校しぶりがあった。
- 中学校に入学して野球部に入ったが、練習についていけず、「頭痛」を訴えるようになって、2学期から不登校が始まる。
- 最初に母親が相談に来室した。本人もカウンセリングに来室するようになり、適応指導教室を目指すことなった。
- WISC-III知能検査の結果はVIQ=108、PIQ=93、FIQ=101、VC=109、PO=97、FD=100、PS=83であった。
- 「わからない」という表現の多さは、言語理解の遅れによるものではなく、対人場面における<不安>のためであろう。

箱庭療法の技法

箱と砂
[教示]
- 「この砂と玩具を使って、何でもいいから、作ってみてください。」と伝え、自由に構成させる。
[箱]
- 箱の内法は57cm×72cm×7cm。
- 砂を掘って箱の底が現れたときに、“水”の感じを表わすことができるよう、箱の内側は青く塗られている。

玩具(ミニチュア)
[玩具(ミニチュア)]
- 特に決まったものはないが、できるだけ多くの種類を用意して、多彩な表現を引き出せるようにする。
- 是非、用意しておきたいものは、人、動物、木、花、乗物、建築物、橋、柵、石、怪獣など。
[質問]
- 作品ができあがったときには、「これは何ですか、説明してください」と尋ねる。
[記録]
- デジタルカメラを使うと便利。

風景構成法について
- 中井久夫が考案した描画法で、箱庭療法への適応をみることができる。
- まず、画用紙(A4版)を枠付けした後、サインペンを渡し、「川、山、田、道、家、木、人、花、動物、石、追加したいもの」を順に描かせる。ここに示される構成からは、将来を予測する力が推量できる。
- 次に、24色程度のクレパスを渡して彩色させる。ここからは感情の投影が示される。
■参考サイト・参考文献
【カウンセリングに関するもの】 ◆『教師教育用学習素材コンテンツ 教師の力量アップをめざして 臨床編 教育相談活動』 メディア教育開発センター 2005 ◆『新しい実践を創造する 学校カウンセリング入門』 国立大学教育実践研究関連センター協議会 教育臨床部会編 東洋館出版社 2007 【箱庭療法に関するもの】 ◆『カルフ箱庭療法(新版)』 ドラ・カルフ著 山中康裕 監訳 河合隼雄 解説 誠信書房 1999年 ◆『箱庭療法入門』 河合隼雄 編 誠信書房 1969年 ◆『箱庭療法の実践』 DVD教材(木村晴子監修)クリエーションアカデミー 2007 【風景構成法に関するもの】 ◆『中井久夫著作集 別巻 (1) H・Nakai風景構成法』 山中康裕 編 岩崎学術出版社 1984年 ◆『心理臨床と表現療法』 山中康裕 編 金剛出版 1999年 |